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アインシュタインと日本

 


1922年(大正11年)、アインシュタインは日本の出版社 「改造社」 の招待を受けて日本を訪問しました。 当時の世界情勢は、あのナチスドイツのユダヤ弾圧がまさに日に日に強くなってきている時代でありました。 そんな時代でありますから、その弾圧からの一時的な安らぎも、この日本訪問で味わっていたようです。

日本郵船の「北野丸」で40日間の航海中、上海に寄る少し前、アインシュタインは船上で1921年度のノーベル賞受賞の知らせを受けました。 このニュースはもちろん日本でも報道され、来日中、アインシュタインブームの中を過ごすこととなります。

博士は、船上でのインタビューに対し、以下のように答えました。

−−−日本訪問の目的は?

「それは2つあります。1つは、ラフカディオ・ハーンなどで読んだ美しい日本を実際に自分の眼で確かめてみたい。とくに音楽、美術、建築などをよく見聞きしてみたいということ、もう1つは、科学の世界的連携によって国際関係を一層親善に導くことは自分の使命であると考えることです。」 [2, p28]

この時代、日本を世界に紹介するラフカディオ・ハーンはまさに時代の人であったと言えましょう。そのハーンの影響をもって、博士も同様に日本に興味を持ったのです。

そして、「北野丸」に乗り込んだ時の、日本の乗客に対する初印象が以下のものです。

乗組員(飾り気のない日本人たち)、友好的、まったくペダンティックでなく、個性的なところはない。日本人は疑問を持たず非個性的で、自分に与えられた社会的機能を晴れやかに尽くし、思わせぶりもなく、しかもその共同体と国家に対して誇りを持っている。その伝統的な特色をヨーロッパ的なものの故に放棄して、その国民としての誇りを弱らせることはない。日本人は非個性的だが、実際はよく打ち解けている。おおむね社会的存在として自己自身のためには何も所有しないかのようであり、何かを隠したり秘密にしたりする必要はないようだ。 [2, p199]

これは、個人的な日記として残されています。 又、他の記録(日記)によると、以下のように、日本を少し引いて見ている点もある。

昨日、ミカドの誕生日。午前中、上甲板でお祝い。万歳と国家斉唱。国家は全くのところ奇異な響きを持ち、風変わりな節回し。日本人は非常に熱心。彼らにとっては国家が同時に宗教になっている。無気味な連中(Unheimliche Kerle) [2, p199]

初印象は、このように、いささか奇妙な姿として捉えられたようだ。 この時代、同じ国を見て、”天皇性軍国主義国家の基礎”であると判断する者もあった。 だが、ラフカディオ・ハーンの著作から興味を持ったという博士は、徐々に日本の良さ・深さを感嘆の念を込めて感じて行くこととなる。

そして、滞在一ヶ月経とうとしている頃、以下の言葉を残している。

個人がそれぞれ感情表現を抑圧するという躾けは、ある内的な貧しさ、自分自身の抑圧を生ずるだろうか? 私はそうは信じない。かような伝統の発達は、確かにこの国民に固有な繊細な感じや、ヨーロッパ人よりもずっと勝っていると思われる同情心の強さによって容易にされた。・・・・・・どれほどしばしば日本人は荒々しい言葉をあえて使い得ないことで、それを虚偽または不正直であると解されていることだろう。[2, p203]

これは、よく知られている事実である。 日本人がはっきり表現しない故に外国から誤解される。 だが、この言葉の裏には、単なる指摘ではなく、”日本人の素晴らしさ”をはっきりと感じ取っている博士の姿が伺えるのだ。

そして、その”言葉”の問題に対して、博士が感じ取ったもの。 それは、言葉を補い補完してくれる、”芸術”の姿である。

 けれども人間についての直接的な体験に欠けているものを、芸術の印象が補完してくれる。日本ではそれをほかのどの国よりも豊富に多様にもたらしてくれる。私がここで「芸術」(Kunst)というのは、美的な意図あるいは副次的意図をもって、人間の手で永続するもの(Dauernde)を目指して製作しているものをさしている。
 この点で私は瞠目と感嘆の念から逃れることができない。自然と人間とは一体様式(Stileinheit)以外の何物をも生まないほどに1つに結ばれて(sich vereinigt)いる。実際にこの国に由来するすべてのものは、愛らしく(ziemlich)晴れやか(heiter)であり、抽象的(abstrakt)でも形而上学的(metaphysisch)でもなく、常に自然によって与えられるものとかなり緊密に結びついている。 [2, p204]

ここで、”自然と人間とは1つに結ばれている”とされている。 この姿こそが、アインシュタイン博士が日本に感じた”最上のもの”であった。

日本の素朴な家屋にある、奥ゆかしい美しさを、様々なところで博士は感じ取っていたようだ。 以下は、来訪中に訪れた茶会の日本家屋に対する感想である。

 私は、特別の優しさを日本の家がいろいろ分かれた滑かな壁や、畳で軟かく敷きつめられたたくさんの小さな部屋をもつことに見出した。どんな小さな個別の物もそこには意味と意義とを持っている。その上に愛らしい人たちがその描いたような微笑をもち、お辞儀をし、座っている−−−あらゆることから、それはただ驚異に値するが、しかし真似することはできない。[2, p218]

この素晴らしさ。 これこそが、日本の伝統たる”美”ではないのか。

だが、その一方で、博士は日本の人たちの中に”ひっかかるもの”も感じていたようだ。

 なお私の心にある1つのことがひっかかっている。確かに日本人は、西洋の精神的所産に感嘆し、成果と大いなる理想とをもって学問に沈潜している。しかしながらその場合にも、西洋よりも優れて持つ大いなる宝、すなわち生活の芸術的造型、個人的欲求の質朴さと寡欲さ、および日本的精神の純粋さと静謐さを純粋に保たれんことを。[2, p239]

つまり、”西洋化により、失われつつある日本”を嘆いていた。

最後に、以下は、博士が日本訪問の感想として残された有名な言葉である。

 近代日本の発展ほど、世界を驚かせたものはない。一系の天皇を戴いていることが今日の日本をあらしめたのである。私はこのような尊い国が世界の一ヶ所位なくてはならないと考えていた。世界の未来は進むだけ進み、その間、幾度か争いは繰り返されて、最後の戦いに疲れる時が来る。その時、人類はまことの平和を求めて、世界的な盟主をあげなければならない。この世界の盟主なるものは、武力や金力ではなく、あらゆる国の歴史を抜き越えた、最も古く、また尊い家柄でなくてはならぬ。世界の文化はアジアに始まって、アジアに帰る。それはアジアの高峰、日本に立ち戻らねばならない。我々は神に感謝する。我々に日本という、尊い国をつくって置いてくれたことを・・・。

1922年(大正11年) アルバート・アインシュタイン博士

日本人は、もっと自信を持っても良いのではないだろうか。

 

追記: (2005/11/03)

この、いわゆる「アインシュタインの予言」であるが、彼のものではなかったとする説を少し前、目にすることがあった。(リンク: アインシュタインと日本 / アインシュタインと日本 Part 2
 その際、この記事の著者とメールを交換する機会があり、この言葉がどのように出てきたのか研究中であることを聞きました。 そして今回、新たな事実が明らかになり、記事にされたということを聞き、内容を拝見させて頂いたところ、興味深い内容でしたので許可を得た上でここに転載いたします。

『致知』掲載論文: アインシュタインと日本(PDFファイル)

元のファイルはこちらからコピーしました

この論文によると、「アインシュタインの予言」に酷似する文章が「シュタインの言葉」として国体思想家・田中智学の本の中にあったという。 又、思想の面から言ってもアインシュタインの言葉ではあり得ないと言う。

  (理由1) どこにも確固たる典拠がない。
  (理由2) 内容がアインシュタインの思想と矛盾する。

よって、この考えを受け入れ、「予言」の文章には取り消し線を挿入しました。 ただし、私としては典拠が関心の元であり、典拠の発見は大発見として喜びたいと思いますが、この論文の推論には多少の違和感が残っていることをお伝えしておきます。

平成15年8月23日 15時56分 記
平成17年11月3日 「予言」の文章に取り消し線を挿入
平成17年11月5日 追記に掲載したPDFのコピー元リンク追加。 追記文の見直し

 

■参考■
1 アインシュタインの世界 (平井 正則 著) PHP研究所
2 アインシュタイン・ショック 第一部 大正日本を揺るがせた四十三日間 (金子 務 著) 河出書房新社
3 素顔のアインシュタイン (マイケル・ホワイト&ジョン・グリビン) 新潮社
4 アインシュタインは語る (アリス・カラプリス) 大月書店

 

 

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